病原性大腸菌O-157
最近、県内でも病原性大腸菌感染の報道が相次ぎ、保健所では手洗いやうがい、消毒の徹底を呼びかけています。病原性大腸菌の中でもO-157感染症は重大な合併症を引き起こし、死にいたることもあります。
1. 病原性大腸菌とは
 大腸菌は私たち人間の腸の中にも数多く存在する細菌ですが、この中で激しい腹痛や下痢を引き起こすものを病原性大腸菌と呼んでいます。病原性大腸菌の中でもO-157はベロ毒素と呼ばれる強い毒素を産生し腸管出血を引き起こし、さらに溶血性尿毒症症候群HUSHemolytic Uremic Syndrome脳症(けいれんや意識障害)などの重篤な合併症を引き起こすことがあります。
 O157は昭和57年(1982年)アメリカオレゴン州とミシガン州でハンバーガーによる集団食中毒事件があり、患者の糞便から原因菌としてはじめて見つかりました。わが国では1990年埼玉県浦和市の幼稚園で井戸水汚染による事件が発生し、患者数319人、死者2人を出しました。また1996年には大阪府堺市で小学校の給食O−157汚染により、10,000人以上の患者を出しました。

 病原性大腸菌は病気の起こし方によって以下の4つに分類されます

  1.  腸管病原性大腸菌(病原血清型大腸菌)
2.  腸管侵入性大腸菌(組織侵入型大腸菌)
3.  腸管毒素原性大腸菌(毒素原性大腸菌)
4.  腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌)

 この中でベロ毒素を産生する大腸菌は出血性大腸炎を引き起こすので「腸管出血性大腸菌Enterohemorrhagic E.coli):EHEC」とも呼ばれています。頻回の水様便、激しい腹痛のほか血便がある時にはO-157のような腸管出血性大腸菌による出血性大腸炎を疑う必要があります。
2. O−157感染が起こりやすい時期や年齢
病原性大腸菌O−157による感染症は生後5ヶ月から80歳台の幅広い年齢層に発症しますが、特に小児での報告が多い傾向にあります。またほかの食中毒と同様に初夏から初秋(6月〜10月頃)にかけての気温が高い時期に多く発生しますが、O−157は100個程度の菌数でも発症しやすいため、サルモネラ、腸炎ビブリオなど、ほかの食中毒菌に比べて気温が低い冬季にも見られ、年間を通じて発生しています。
3.病原性大腸菌O−157の構造(図1
大腸菌には菌体の周囲に鞭毛(べんもう)があり、菌体と鞭毛の抗原の種類によって分類されます。
菌体の抗原を“O”で表わし、鞭毛の抗原を“H”で表わします。O−157:H7は157番目のO抗原とH7というH抗原を持っているということになります。

O
抗原は大腸菌の菌体表面(細胞壁)の糖脂質の抗原性のことで、約180種類の違いが知られています。またH抗原には約70種類が知られています。


        腸管出血性大腸菌
      図1 病原性大腸菌O−157

 
4.ベロ毒素とは
腸管出血性大腸菌が産生する“ベロ毒素”の名前の由来はベロ細胞(アフリカミドリザルの腎臓細胞) を殺してしまうことから“ベロ毒素”と名づけられました。ベロ毒素はたんぱく質の合成を止め、細胞を死に至らしめます。ベロ毒素は特に腎臓、脳、肺など重要な臓器に障害を起こし重篤な病状へ進展してしまいます。
腸管出血性大腸菌が産生するベロ毒素(Vero Toxin)は1型毒素(VT12型(VT2の2種類が存在します。VT1は赤痢菌が産生する志賀毒素(Shiga toxin:Stx)とまったく同一の分子構造をしており、VT2Stxと約55%相同しています。O−157にはVT1のみを作るもの、VT2のみを作るもの、VT1VT2の両方を作るものの3種類が存在します。
腸管出血性大腸菌によって産生されたベロ毒素は
1.腸管粘膜上皮細胞を破壊して下痢をおこし、腸管血管内皮細胞を傷害して腸管粘膜のびらんと腸管出血(血便)を引き起こし、

2.腎臓の糸球体血管内皮細胞を傷害し、急性腎不全、さらには溶血性尿毒症症候群を発症します。溶血性尿毒症症候群の発症にはベロ毒素のうち、特にVT2が関与していると考えられています。

5.ほかにベロ毒素を産生する病原性大腸菌は
 わが国で確認された、ベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌(O血清型)はO−157、OO26、O−111、O−128など60種以上の血清型が知られています。O−26はO−157と同じく腸管出血性大腸菌に属する、ベロ毒素産生型の大腸菌ですが、O−26はO−157に比べてベロ毒素の産生量は少なく、溶血性尿毒症症候群や脳症などの重症合併症を発症することはほとんどありません。しかしながら、やはり感染力が強く、二次感染を厳重に予防する必要があります。
6.どのようにして感染しますか?(O−157の感染経路)
 O−157は牛、羊、豚などの大腸を住みかとしているため、家畜の糞便中に時々見られます。家畜糞便や糞便で汚染された水や食物を介してヒトの口に入り、感染したヒトからヒトへ感染します。
7.症状は
 先にも述べたように多くの食中毒では100万個以上の菌が体の中に入らないと発症しませんが、病原性大腸菌O−157はその感染力が非常に強く、100個程度の菌数が体の中に入っただけでも発症します。O−157に感染すると約半数の症例は約3〜8日の潜伏期間の後、頻回の水様便で発病します。その約半数に出血性大腸炎を起こし激しい腹痛と「赤ワインのよう」と表される、粘液が少ない水のような血便が見られます。さらにその3〜7日後に出血性大腸炎を起こしたうちの約1030%に溶血性尿毒症症候群を発症し急性腎不全へと移行します。溶血性尿毒症症候群を起こした人の2030%に脳症を発生し、その約1020%は死亡するといわれています。脳症は溶血性尿毒症症候群とほぼ同時期に発症することが多く、前兆として頭痛、傾眠、幻覚などの症状が出現し、数時間から12時間後にけいれんや昏睡状態など重篤な状態になります。
 溶血性尿毒症症候群では乏尿(尿が少ないこと)と浮腫(むくみ)に注意が必要です。これらの症状に引き続き赤血球数減少、ヘモグロビン値低下、破砕状赤血球の出現、血清BUN・クレアチニン値上昇をともなう腎機能障害、GOT値・GPT値の上昇をともなう肝機能障害が見られます。

8.O-157の診断方法
 O−157の診断にはO−157の菌を検出する方法と、O−157が産生するベロ毒素を検出する方法に分けられますが、いずれの場合にも糞便から直接検査する場合と、便から菌を培養した後に検査する場合があります。今後ますます迅速に対応できるO−157の診断薬の開発が待たれます。

9.治療
 下痢の際には安静、水分補給および消化しやすい食事摂取の援助が必要となります。下痢が激しい時は水分を多く取らせます。乳製品、冷たいもの、油で揚げたもの、繊維の多い食物は避けましょう。また食事摂取が不可能な重症患者には点滴を必要とします。市販の下痢止めや痛み止めの服用により菌が腸内で増殖しベロ毒素が体外に排出されにくくなり、症状を重くする恐れがありますので、勝手に薬を飲まない方がよいと考えられます。血便や腹痛があるときは早急に医療機関を受診し、病原性大腸菌に感染していないか調べてもらう必要があります。
腸管出血性大腸菌は平成114月に新しく制定された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」により「3類感染症」に分類されており、感染者(患者・無症状保菌者)が発生した場合、医師はただちに最寄りの保健所へ届出ることになっています。O−157などの腸管出血性大腸菌に感染したすべての人が入院しなければいけないということはありません。また便の検査でベロ毒素産生菌が陰性であれば就業制限は解除されます。
 検便で病原性大腸菌に感染していることが明らかな時は、菌の排出を防止するために抗菌剤を3日間内服する必要があります。服薬中と服薬中止後48時間以上経過した時点の2回とも検便して陰性であれば感染から解放されたといえます。症状がなくなった後もO−157は1〜2週間、腸の中に残り、便の中にも出てきますので消毒などの予防は続けて行う必要があります。

10.予防
 O−157は水の中、土の中で数週間〜数ヶ月間生きているといわれています。また低温に強く、冷凍庫の中でも生き残る菌がいるといわれています。また酸に強く、pH3.5でも生き残り、大部分は胃酸にも負けずに生き残ります。しかしながら熱に弱く、75℃1分間の加熱で死んでしまうといわれています。したがって次のようなことに注意したいものです。


1)夏場に生ものを食べるのは控えめにしましょう。

2)できるだけ新鮮な材料を使い、加熱は十分にしましょう。野菜からO−157を除菌するには100℃の湯で5秒間程度湯がくのが有効とされています。また電子レンジでの加熱は内部まで全体に均等に加熱できるようにかき混ぜるのが良いでしょう。

3)冷蔵庫は万能庫ではないので、とくに作り置きして冷蔵庫におくのはできるだけ控えましょう。冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫は−15℃以下に維持するのが目安です。細菌増殖は10℃でゆっくりとなり、−15℃では停止しますが、細菌が死滅するわけではありません。

4)清潔な手と清潔な器具での調理を心がけましょう。調理器具は十分に洗浄し熱湯をかけ、消毒薬で消毒しましょう
下処理用と仕上げ用に区別することも大切です。つめを短めに切って石鹸を使って流水でよく洗い、清潔なタオルやペーパータオルでふきあげましょう。
5)2次感染予防
患者の糞便や便で汚染されたものの処理には手袋を利用し、石鹸と流水でよく手洗いしましょう。患者が入浴する場合は高齢者や乳幼児との混浴を避けてください。

6)ハエから食品を守りましょう。
平成811月に佐賀県内のO−157感染者が発生した施設で採取されたイエバエからもO−157が検出され、ハエによってO−157が運ばれることが確かめられており、ハエの駆除が大切です。

7)飲料水の衛生管理をしっかりしましょう。
家庭浄水器を通した水は含有塩素量が減少しているため、長期間汲み置きした水はのまない方が良いとされています。またマンションなどの貯水槽や井戸水の大腸菌の有無や残留塩素・水質の検査も必要となります。


プールは定期的に塩素濃度を測定し衛生基準を満たすことになっており、O−157に感染する危険は少ないとされていますが、下痢しているヒトや感染者はプールに入らせないようにしましょう。また公衆浴場や温泉では循環ろ過装置や消毒剤を用いて浴槽水を常にきれいにすることになっています。

11.最後に
 食中毒の予防は何といっても食中毒菌を「付けない、増やさない、殺す」の3原則です。細菌が繁殖しやすい時期は特に注意して快適な食生活を送りたいものです。

                             医療法人 将優会クリニックうしたに
                 理事長・院長 牛谷義秀

社団法人宮崎県トラック協会