大腸(がん)検診(便潜血)陽性をどう考えるか?

−注腸検査か?大腸内視鏡検査か?−

 癌による死亡は脳卒中や心臓病による死亡を上回っており、全体の30%を占めています。今なお日本人には胃癌が多いものの、最近男女とも少なくなってきており、逆に大腸癌は年々増加傾向にあります。生活様式が欧米化してきたためと考えられており、特に脂肪を多く取り過ぎ、野菜をあまり取らない食生活に大きな問題があるといわれています。

1.大腸癌検診の問題点

 腸癌検診は大便の一部を2日に分けて2回分提出して、その中に血液が混じっていないかどうかを検査する「便潜血2日法」が一般的です。以前の便潜血検査ではヒト以外の血液でも陽性となることがありましたが、最近の検査は人間の血液のみに反応するように改善されてきました。口から肛門までの食物の通過する器官のどこかに1日7ml程度以上の出血があれば陽性反応があらわれる検査であり、場所が不確実で病気の特定もできないということになります。たとえ大腸癌が存在しても1回の便潜血検査で陽性になる確率は60%、陰性になる確率が40%あるといわれており、2回のうち1回が陽性になる確率は80%、3回のうち1回が陽性になる確率は90%といわれています。したがって便潜血検査では出血をともなう大腸疾患、特に大腸ポリープや大腸癌があっても陰性になってしまうケースもあり、2回分検査しても決して十分とはいえないことを常に念頭におき、結果が陰性でも“安心だ”と過信してはいけないことを心しておく必要があります。しかしながら便潜血検査が1回でも陽性になった場合には積極的に次の精密検査を受けるべきでしょう。

2.大腸精密検査

 一般的に大腸精密検査といえば、「注腸検査」と「大腸内視鏡検査」の二つのことをさします。「注腸検査」は図1に示すように便の流れに逆行するように、肛門から回盲部(大腸の始まり)まで体位(体の向き)を変換しながらバリウムを注入し空気を送入して大腸粘膜に付着したバリウムの様子で病変の有無を判定する方法で、通常10分程度で終了します。これに対して「大腸内視鏡検査」は内視鏡を肛門より挿入し、全大腸を検査する方法で10分〜15分程度で終わります。数ミリのポリープも発見でき、小さいものであればその場で切除することも可能です。ポリープとは大腸の粘膜にできる小さな隆起性病変、平たくいうと粘膜面にできたすべての突出物といえます。一般的に5o未満のポリープで約0.1%、5〜9oの大きさで約10%、10o以上の大きさになると約20%、20o以上になると約50%の頻度でポリープ内の一部に癌細胞がみられるようになるといわれています。癌に進行する危険性が高い「腺腫」と呼ばれるポリープが、発見された全ポリープの約80%を占め、残りは切除不要なポリープと考えられます。切除不要なポリープかどうか?ポリープ発見時に判断するのは困難ですが、最近では「拡大内視鏡」と呼ばれる特殊な大腸内視鏡で観察できるポリープ表面の腺管構造(専門的にはピットパターンと呼んでいます)で良性か?悪性か?ある程度の区別ができる(図2)ようになり、早期大腸癌の診断(図3 早期大腸癌の肉眼分類)が向上しました。
 人間ドッグや集団検診で行われる大腸内視鏡検査では一般的に全大腸ではなく、肛門側から約40cm前後のS状結腸(図1参照)まで観察され、それより口側は便潜血検査で代用する方法がとられています。これは検診目的で実施される大腸内視鏡検査は、被検者(検査を受ける人)によっては最も個人差の大きい「S状結腸」までの内視鏡挿入が困難なケースもあり、医師ひとりが担当する1日当たりの検査人数をクリアするのに無理があったり、検診では苦痛が強かったり、事故が起こりかねない状況は回避しなければならないと考えられるからです。

3.「注腸検査」と「大腸内視鏡検査」、どちらが正しい選択か?

 注腸検査」と「大腸内視鏡検査」、どちらが正しい選択なのか、これは古くから議論されてきましたが、最近では大腸内視鏡検査に軍配が上がり、一般化してきています。確かに注腸検査では少なからず放射線を被爆する、腸管の重なりが多いS状結腸の病変や大腸の平坦型病変はやや発見されにくいという問題があります。しかしながら、被検者の年齢や性格、S状結腸や脾彎曲(わんきょく)、肝彎曲と呼ばれる箇所の曲がりや捻転(ねんてん)の強さ(図4)から内視鏡挿入に難渋する解剖学的困難ケース、さらには手術後の腸管癒着などから無理ができないケースでは、むしろ大腸内視鏡検査より注腸検査を選択すべきだと考えるべきケースも多数あります。注腸検査で万が一、ポリープなどの大腸病変の存在が疑われ大腸内視鏡検査が改めて必要となった場合(図5)、すでに注腸検査で大腸の彎曲や捻転が明らかとなっており、医師は大腸内視鏡をより安全に実施することができます。さらに腸管の重なりが多いS状結腸や彎曲の強い箇所では医師の思惑とは裏腹に内視鏡が見る見るうちに自然抜去され、大腸ヒダの裏に存在するポリープなどが見過ごされてしまう危険性はむしろ注腸検査の方がないと考えられています。
 大腸内視鏡検査にあたっては、大腸内視鏡検査に熟練した専門医や指導医のみが担当しているわけではないこと、注腸検査と違って内視鏡挿入操作にともなう大腸穿孔(大腸の壁に穴があき、腹膜炎をおこす)などのトラブルや大腸ポリープ切除にともなう出血や穿孔などの危険は常につきまとう問題であり、内視鏡検査前に十分なインフォームドコンセント(説明と同意)が行なわれているか、また万が一非常事態が発生した場合に対処されるべきシステムがしっかりしているかなどをあらかじめ確認しておくことも大切でしょう。
 
また内視鏡検査では腸管内の詳細な病変を見逃さないために腸管の動きをおさえる薬を投薬することは必須ですが、このほかに被検者の苦痛を取り除く目的で鎮静剤やモルヒネ製剤を投与することがあります。いずれの投与薬も被検者の年齢や基礎疾患の有無、その日の体調によっては薬が効き過ぎて呼吸停止や心機能への負担増加によるトラブルが発生する危険がありますので、被検者は内視鏡検査に先立ち意思表示をはっきりすることが大切です。大腸内視鏡に精通した専門医や指導医であれば、鎮静剤やモルヒネ製剤を投与しなくても比較的スムースに全行程を終了することができます。また自分の腸管内が見えることに感動を覚える被検者や医師の説明に同意しながらポリープ切除の過程を観察できるということに満足される被験者もおられます。また大腸内視鏡検査に精通していない医師が担当する場合、レントゲン室でX線透視下に内視鏡の走行を確認しながら実施されることもあり、注腸検査よりも被爆がずっと多くなることもあります。

4.大腸ポリープの治療

 ほとんどのポリープは内視鏡を使って切除することが可能です。切除する際には痛みはまったくありません。図6のように、表面隆起型の大腸癌の存在が疑われた際には色素撒布によってその境界を明らかとし、大腸の壁を損傷しないように粘膜下に生理食塩水を注入し、その後ワイヤー金属の輪をかけて高周波の電流を流して切除します。図7に示しますように大腸の壁は非常に薄く、胃壁の約5分の1くらいの厚さなので切除の際、通電が過剰になりすぎると大腸穿孔の危険があり、また不足すると切除した瞬間に出血が起こります。いずれの操作にも医師の裁量と技量差が大きく関係しますので、専門医での治療が望まれます。

5.宮崎市の大腸癌検診

 平成14年度宮崎市の大腸癌検診状況を表1に示しました。検診対象者約52,000人のうち、受診者数(便潜血2日法)は11,451人でした。このうち便潜血陽性者は870人で、さらに大腸精密検査で大腸ポリープが判明した人は219人、さらに大腸癌が判明した人が33人(早期癌11人、進行癌12人)でした。受診状況や便潜血陽性者および大腸ポリープ、大腸癌が明らかとなった比率はこの数年間ほとんど変わっていませんでした。大腸癌検診の受診者数が毎年約20数パーセントにとどまっている状況が改善されれば、少なくとも大腸が進行した状態(進行癌)で発見される件数は減少するでしょう。当然のことながら、検診で陽性と診断され大腸精密検査まで受けた人に早期癌の比率が多いのに対して、腹痛や下血などの症状が出てから病院を受診し大腸精密検査を受けた人には進行癌が多く見られます。

6.大腸癌の予防

 大腸癌にならないためには食事や運動療法など皆さんが日常生活でできる一次予防、検査でポリープが見つかった場合、癌に進行する前に内視鏡的に切除する二次予防、さらに大腸癌の手術をした方は別箇所にも発生しやすいといわれているポリープの再発や手術後の局所再発などを防ぐために定期検査を受けていただく三次予防があります。
 大腸癌にならないための食事療法として、肉類の取りすぎを避け、脂分の多い食事を減らし、食物繊維や海藻、くだものを積極的にとるということが大切です。肉や脂肪分を取るとこれを消化するために胆汁が分泌されます。胆汁は腸内細菌の作用をうけて二次胆汁酸に変化しますが、この二次胆汁酸がポリープや癌の発生を促進させると考えられています。また運動をすることによって血液循環がよくなり大腸の運動が活発になると、癌発生の原因のひとつと考えられている便秘を予防することができます。ウォーキングや腹筋運動が効果的といえましょう。

医療法人将優会クリニックうしたに
                    理事長・院長 牛谷義秀



1 注腸検査
個人差が多い大腸の走行や病変の存在が明らかとなります



2 拡大内視鏡による早期大腸癌のピットパターン(腺口形態)



図3 早期大腸癌の肉眼分類


図4 注腸検査で明らかとなったS状結腸ループ、脾彎曲、肝彎曲

大腸内視鏡挿入の難渋が予想される解剖学的困難ケース



検診対象者 52,000
受診者総数11,451人(未受診者40,549人)
便潜血陽性 870 便潜血陰性 10,581
大腸ポリープ 219 大腸ポリープ
大腸癌 33 大腸癌
早期癌11人 進行癌12
表1 宮崎市大腸癌検診(平成14年度)

社団法人宮崎県トラック協会