『糖尿病患者は明らかに増加し続けている!』

平成11年の健康プラザ10月号で「糖尿病はどんな病気?」というタイトルで、糖尿病に関して特集しましたが、今回読者の中から「どうして糖尿病になるのか?」の質問が寄せられました。簡単にいえば、食べ過ぎや運動量の減少などが生活習慣病の温床となり、糖尿病が引き起こされます。生活習慣のひずみが糖尿病の引き金になることは確かですが、それだけが原因といえる単純な病気ではなく、遺伝的な体質も関与します。

1.『糖尿病の患者数』

厚生労働省「糖尿病実態調査(平成9年度)」によりますと、糖尿病患者は全国で約690万人、予備軍まで含めると1,370万人いるといわれています。平成11年の健康プラザでの報告より明らかに増加していることがわかります。
2.糖尿病はどうしておこるのか?

私たちが普通に生活できるために最も重要なエネルギー源であるブドウ糖がうまく利用されないで血糖値が高くなる状態(高血糖)が長く続くと、いろいろな臓器や血管が障害を受けることになります。糖尿病はこの高血糖の状態が長く続いて引き起こされます。食べ過ぎや油物の取りすぎ、運動量の減少などは、4大生活習慣病といわれる高脂血症、高血圧、肥満および糖尿病の引き金となり、一番の温床となっています

3.糖尿病の新しい分類

  1999年の日本糖尿病学会が発表した糖尿病の臨床診断を表1に、糖尿病の分類を表2に示しました。1型糖尿病はインスリン治療が唯一の治療法であるインスリン依存型糖尿病といわれてきた糖尿病であり、また2型糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンの量が低下したか、インスリン抵抗性が増加したために発生するものと考えられています。膵臓から分泌されるインスリンは体に取り込まれたブドウ糖をエネルギーにかえる大切な役割を担っています。
  空腹時血糖が高いと診断された人は境界型糖尿病なのか、ただちに治療を必要とする糖尿病なのか、糖負荷試験などの検査で自分の病態を明らかにする必要があります(図1 経口ブドウ糖負荷試験)。

4.糖尿病の症状 

糖尿病は痛くもかゆくもありません。それなのになぜ血糖をコントロールしなければならないのでしょうか?

一般的に多い症状は口が渇き(口渇)、水分をよく取り(多飲)、尿量が多く(多尿)、体重が減少します。これは比較的程度の軽い早期の糖尿病にみられる症状ですが、病状が進行してしまうと眼や神経、腎臓がダメージを受けるようになり、一方では動脈硬化が進行し脳梗塞や心筋梗塞をおこす危険性が高まります。これらの合併症から取り返しのつかない病状へと悪化しますので注意が必要です。糖尿病の合併症は次の3大合併症と動脈硬化に代表されます。 

@網膜症 

 目の奥にある網膜の血管がつまったり出血したりして見えにくくなり、失明の原因となります。

A腎障害          

 糖尿病が原因で、腎障害が進行して腎不全となった場合には1週間に3〜4回の腹膜透析や血液透析を一生涯続けなければならなくなります。

B神経障害 

 手袋をつける両手の範囲や靴下をはく両足の範囲のしびれなどの感覚障害がわりと早い時期に出現します。また男性の勃起障害も糖尿病の神経障害のひとつとして有名です。

C動脈硬化 

糖尿病は血管に大きな悪影響を及ぼし、動脈硬化の進行を加速的に早めます。最近、脳梗塞や心筋梗塞などの病気が増加していますが、糖尿病患者では脳動脈硬化が原因で脳梗塞になる危険度は糖尿病でない人の約2倍といわれており、深刻な問題です。また、「壊疽(エソ)」(図2)となり手足の先が腐ってしまうために、残念ながら手や足を切断しなければならなくなることも珍しくありません。

5.糖尿病の治療

糖尿病治療の目的は網膜症腎障害神経障害の3大合併症と脳卒中や、狭心症心筋梗塞閉塞性動脈硬化症など動脈硬化性疾患の発症、悪化を予防し、阻止することにあります。そのためには血糖のコントロールだけでなく血圧、高コレステロール血症、肥満なども視野にいれた管理が必要となります。糖尿病治療の原則は食事療法と運動療法です。糖尿病が軽症の場合は生活習慣の改善で軽快しますが、ひとたび悪化すると健康な頃にもどることが困難となります。糖尿病は病気に対する認識と自らの努力が絶対の必要条件となります。たとえば、お酒を飲む機会が多い人はお酌をされにくいウイスキーやジョッキビールをオーダーするように心がけ、女性では果物や菓子などの間食を控えるだけで改善することもまれではありません。寝る前の大食は控え、野菜や海草などの繊維質のものを多くとる一方で、動物性脂肪や揚げ物を減らすとよいでしょう。

 食事療法と一口にいっても簡単ではありません。食事療法の原則は@適正なエネルギーの摂取、A食物の糖質・たんぱく質・脂質のバランス、Bビタミンや電解質の適量摂取です。

適正なエネルギーは〔患者の標準体重〕〕×〔身体活動量〕で求められます。患者の理想的な標準体重(kg)〔身長(m)〕×〔身長(m)〕×22で示され、身体活動量は事務などの軽作業者で25〜30kcal/kg、普通の作業者で30〜35kcal/kg、スポーツマンや重労働者で40 kcal/kg 以上と考えられています。

糖質・たんぱく質・脂質のバランスは適正エネルギーの50〜60%を糖質とし、たんぱく質は標準体重1kg当たり1.0〜1.2g、残りを脂質に当てるのが妥当と考えられています。かかりつけの医師や栄養士から納得できるまで指導を仰ぎ、正しい治療と自己管理をおこなうことが重要です。

 運動療法は一般的には早足歩行のように、無理なく長く続けられる運動を1日30分〜60分、週3〜5日行うとよいとされています。しかし、糖尿病患者は高血圧、高コレステロール血症、肥満などをともなっていることが多いため、その程度に応じた運動プログラムを決定するのが理想的です。このような運動療法は糖尿病ばかりでなく、高血圧、肥満、高コレステロール血症、高尿酸血症などの生活習慣病の改善にも有効です。

 糖尿病が進行してしまうと治療薬が必要となります。糖尿病の治療薬には経口薬治療とインスリン治療があります。

経口薬治療にはスルホニル尿素、速効型インスリン分泌促進薬、ビグアナイド薬、インスリン抵抗性改善薬、αグルコシダーゼ阻害薬などいくつもの種類があります。しかしながら、1型糖尿病のようなインスリン依存状態、重症の肝障害・腎障害、重症の感染症や大きな手術後、食事療法だけでは良好な血糖コントロールができない糖尿病妊婦ではインスリンが絶対的に必要な状況となります。またインスリンが不足したりインスリン抵抗性が高まっている場合には、かつては最後の手段と考えられていたインスリン自己注射を早めに導入し、膵臓を休めることで十分にインスリン機能を改善させた時点で、経口薬に切り替えるという治療法も一般的となってきました。
6.糖尿病の改善度のチェック(表3)

最近では健康診断により早期の段階で糖尿病が発見されることが多くなりました。糖尿病の自己管理では@血糖値、AヘモグロビンAC、B尿糖、C体重のチェックが重要となります。血糖値は自分で管理できるように自分専用の簡単な血糖測定器を購入して意識づけするのもよい方法だと考えます。
最後に糖尿病は生活習慣病のひとつですが、これに高脂血症、高血圧、喫煙や肥満が重なった場合、狭心症や心筋梗塞などの心臓病発症の危険度が約6.6倍になるとも報告されており、注意が必要です。また高血圧や高脂血症の治療中の人では、一般の人に比べて糖尿病を発症する危険が高いことも明らかにされており、今後とも過食、運動不足にならないように生活習慣を見直し是正するようにしましょう。

1 新しい糖尿病の臨床診断(日本糖尿病学会、1999年)

    1.以下のいずれかの血糖値が別々の日に行った検査で2回以上確認できたとき、糖尿病と診断する

@ 空腹時血糖値≧126mgL 

A 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)

     2時間血糖値≧200mg/dL

B 随時血糖値≧200mg/dL

    2.血糖値の異常が1回でも糖尿病型(上記1.@、A、B)であれば、下記のいずれかの条件が満たされ      れば糖尿病と診断する

@糖尿病の典型的症状(多尿、口渇、多飲、体重減少)の存在

AHbA1C≧6.5%

B確実な糖尿病性網膜症

表2 糖尿病の分類(日本糖尿病学会,1999年)

T.1型糖尿病[β細胞の破壊、通常は絶対的インスリン欠乏に至る]

    A.自己免疫性

    B.特発性

U.2型糖尿病[インスリン分泌低下を主体とするものとインスリン抵抗性が主体で、それにインスリンの  相対的不足をともなうものなどがある]

V.そのほかの特定の機序、疾患によるもの
    A.遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの

    B.ほかの疾患

    @膵外分泌
疾患

      A内分泌疾患

      B肝疾患

      C薬剤や化学物質によるもの

      D感染症

      E免疫機序による、まれな病態

      Fそのほかの遺伝的症候群で糖尿病をともなうことが多いもの


W.妊娠糖尿病

(★ 縦軸の空腹時血糖値が前回の平成1110月号での140 mgLから126 mgLに変更されています)