『薬と飲食物の相互作用に注意』

最近では新しい薬が毎年のように開発され、そのたびに薬の効能や副作用についての話題が茶の間でも聞かれるようになってきました。これまで「薬と薬」の相互作用についてはいろいろと注目されてきましたが、「飲み物と薬」、「食べ物と薬」の相互作用についてはとやかく言われることはほとんどありませんでした。ところが薬物の相互作用として気をつけたい食品や嗜好品の記述は意外に多く、圧倒的に多いのはアルコールであり、ついでビタミン、西欧で有名なオトギリソウ科のハーブであるセイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート:SJW)、牛乳、グレープフルーツなどが挙げられます。

今回は身近な「飲食物と薬」の相互作用について考えてみましょう。

1.『薬の吸収・代謝は?』

 内服した薬は主に小腸から吸収され、血液の流れに乗って肝臓に運ばれ、さらに全身に送られます。その間に、小腸や肝臓で薬物代謝酵素により代謝・分解されます。ヒトの食事は千差万別であり、人種差、性差、嗜好、時代の推移によっても変わってきます。「この食物は薬とどのように相互作用するか」を考えながら食べている人はほとんどいないでしょう。    
食事が薬物の吸収量や吸収パターンに影響を与えるのは、「食物と薬品の服用タイミング」による場合と「食物に含まれるある種の成分と薬品との間で発生する相互作用」による場合が考えられます。

2.    飲み物と薬

1)牛乳と一部の抗菌薬
  牛乳に含まれる多量のカルシウムが薬と結合してしまい、小腸などから吸収されるのを阻害し,
  効果が弱まってしまうことがあります。


2) 牛乳と抗真菌薬
   脂肪分によく溶ける性質をもつ一部の抗真菌薬は、脂肪分が多い牛乳とともに小腸から吸収さ   れやすくなり、予想した以上に薬が効き過ぎることがあります。
  
3) 牛乳と腸で溶けるタイプの便秘薬
  
通常、胃の中は酸性に保たれていますが、牛乳を飲むと一時的に大腸内と同じ中性にな   ってしまいます。このため、本来胃では溶けずに腸で溶けるはずの薬が胃の中で溶け    出し、胃が荒れて胃粘膜障害をおこしたり、腸からの吸収が遅れて効果が弱まること    があります。

4)牛乳と乾癬(カンセン)・角化症治療薬 
   牛乳で服用すると吸収が促進され、血液中の濃度が最高約3倍にも上昇することがあると報告   されています。

5)炭酸飲料と一部の解熱鎮痛薬(アスピリン)
   炭酸飲料は、炭酸ガスにより飲み物自体が酸性になっています。こ
のため、酸性の状態では      消化管からの吸収が低下する性質をもつ一部の解熱鎮痛薬を炭酸飲料で飲むと血液中の薬      物濃度が低下し、効果が弱まることがあります。

6)緑茶と鉄剤の飲み合わせ
   鉄は緑茶に含まれるタンニン酸と結合すると消化管からの吸収が悪くなるために、「緑茶と鉄     剤をいっしょに飲んではいけない」というのが常識と考えられていました。しかしタンニン酸との     結合による鉄の吸収低下は服用量全体からみるとごくわずかであり、薬の効果にほとんど影      響しないことが明らかとなりました。したがって現在では緑茶と鉄剤はいっしょに飲んでも問題な    いと考えられるようになりました。

7)アルコールと薬 
  摂取したアルコールは、ほとんど上部消化管で吸収され肝臓に運ばれて90%以上が肝臓にお    いて代謝されます。常習的な飲酒は肝臓の薬物代謝酵素を誘導し、その結果、薬物血中濃度が    低下し、薬の効きめが減弱します。一方、飲酒直後のアルコール血中濃度が高い状態では、こ    れらの薬物血中濃度は上昇し、薬の効きめが増強されます。言うまでもないことですが、飲酒中    に薬を服用したり、ビールやお酒と一緒に服用することはきわめて危険であるといわざるを得ま    せん

3.食べ物と薬
―グレープフルーツと@一部の高脂血症の薬とA高血圧・狭心症の薬、B睡眠薬など―

グレープフルーツに含まれる特有の成分が、小腸の薬物代謝酵素の働きを妨害することにより、薬の代謝が遅れ血液中の薬物濃度が異常に上昇して薬が効きすぎることがあります。この相互作用はグレープフルーツだけでなくグレープフルーツジュースでもおこります。これはグレープフルーツに特徴的な含有成分であるフラノクマリン類が原因物質として最有力視されています。また、このグレープフルーツの効果は飲食を中止しても数日は続くので薬の服用にあたっては注意が必要です。
4.そのほか
1)喫煙と薬物の相互作用
喫煙は循環器系、消化器系、中枢神経系の機能に影響し、医薬品の体内動態や治療効果を変化させることが知られています。毎日受動喫煙(本人は喫煙していないものの、周囲の人が喫煙しているために必然的に喫煙しているのと同じ状況となること)を受けている人も薬の内服の際、タバコの煙に含まれるニコチンがある種類の血圧降下剤などに直接影響を与えることが知られているため注意が必要です。

2)ビタミン
ビタミンC 、葉酸、塩酸ピリドキシンなどのビタミン類はある種類の薬物の代謝に影響をおよぼすことが知られています。ビタミンCはアスコルビン酸が不足している糖尿病や高齢者で、アンチピリン代謝を上昇させ血中濃度を下げます。また、葉酸はその併用によってフェニトインの血中濃度を下降させ、てんかん患者の発作を誘発したという報告があります。一方、塩酸ピリドキシンもフェニトインやフェノバルビタールとの併用で同様のてんかん症状が誘発されると考えられています。


3)セント・ジョーンズ・ワート(SJW)
セント・ジョーンズ・ワートはハーブの一種で、抗うつ作用、抗ストレス作用をもつ健康食品として広く含有されています。グレープフルーツジュースとは逆に薬物代謝酵素を誘導して薬物血中濃度を低下させ、薬の効きめを減弱させてしまいます。SJWを併用することで血中濃度が低下する薬剤としてジギタリス製剤、抗てんかん薬のフェニトイン、フェノバルビタール、抗不整脈薬のジソピラミド、塩酸アミオダロンなどが報告されています。

4.最後に
毎年開発される新薬の副作用や効能もさることながら、健康ブームをリードするかのような健康食品の氾濫や時代とともに変遷する食生活や嗜好品を考えると、それぞれの相互作用はますます増加し、食物と医薬品の相互作用が発生する機会が非常に多くなると予想されます。したがって、今後ますます相互作用に対する細かい注意が重要となってきそうです。