『ペットが人間にもたらす病気!』


最近のペットブームはますます過熱し、家族の一員として溺愛され、寝食をともにするなど、ヒトと動物との距離がさらに短くなり、動物からヒトへ移る病気が増えてきています。中世のペストや近代の狂犬病のように歴史的に有名な感染症以外にも、近年動物からヒトへの感染症は大きな話題となっています。特に、20世紀後半から出現した新しい感染症の約3分の2は動物由来と考えられています。昨年、人類を恐怖のルツボに陥れたSARS(サーズ)と呼ばれる新型肺炎(=重症急性呼吸器症候群)もハクビシンという動物が感染源の筆頭として疑われています。

1.ペットをなめると危険!

あたかも赤ん坊に食事をあげるかのように、ペットに口移しでえさをやったり、同じベッドに寝たりするヒトが多いと聞きます。こんな親密な接し方をしているときに思いもよらない病気が動物からヒトに移ることがあります。ヒトと動物がともにかかる感染症を「人畜共通感染症」と呼んでおり、厚生労働省では感染症対策の立場から「動物由来感染症」とも呼んでいますが、その数は現在、世界で200種類以上、日本でも60種類以上存在するといわれています。

2.人畜共通感染症にはどんな病気があるの?

 日本では根絶している人畜共通感染症もありますが、検疫を免れて国内に持ち込まれた動物からの感染も報告されており、すべての動物が安全とは決していえません。貿易税関統計などに基づく輸入動物調査では世界各国から約40種類のほ乳類が1年平均120130万頭輸入されていることが明らかになっています。オランダが最も多く、次いでチェコ、アメリカ、中国の順となっています。オランダとチェコからハムスター、アメリカからフェレット、プレーリードッグ、中国からはリスが多く輸入されています。鳥類は約40カ国から2030万羽、サル類はアジア、南米およびアフリカの6カ国から6000頭前後が輸入されています。

19994月から新しい感染症法が施行され、「動物由来感染症対策」が盛り込まれました。外国から輸入されるサルなどに輸入時の検疫を義務付け、ヒトもサルも感染するエボラ出血熱などの侵入を水際で止めるようになりました。20033月にはペストを媒介する危険のある動物としてプレーリードッグの輸入禁止処置も取られました。

どんな病気が動物からもたらされるかを知ることはとても大切なことです。その代表的な疾患をひもといてみましょう。

T. ウイルスが原因となるもの

1)      狂犬病

 日本国内では昭和32年以来発生していませんが、海外では毎年約3万件の発生報告があります。アメリカではイヌのほか、ネコ、ウシ、スカンク、コウモリなどでもその発生が確認されており、これらの唾液中に含まれるウイルスが咬まれた際に体内に侵入し、脳脊髄膜炎などを発症すると100%死亡すると言われています。

2)        日本脳炎

日本では1950年代に小児を中心に年間数千人の患者が発生していましたが、今では年間数例を数えるのみです。コガタアカイエカなどの蚊による吸血が原因となってヒトへ媒介され、高熱を出して死亡することがあります。ヒトのほかウマやブタにも感染します。

3)       マールブルグ病

日本猿でなく、アフリカ産のミドリザルによる接触でヒトに感染します。アフリカへの旅行やアフリカからの輸入サルには注意が必要です。

4)       ラッサ熱

アフリカ野ネズミの一種であるマストミスが感染源となり、死亡率が高い感染症です。

II.      寄生虫

1)    トキソプラズマ病

   トキソプラズマ原虫に感染したブタやヒツジなどの生肉を食べて感染したネコやイヌの便中にいる卵がヒトに感染しておこります。トキソプラズマ抗体をもたない妊婦が感染すると流産・早産のほか、新生児水頭症、知恵遅れ、視力低下など新生児への悪影響が心配されます。妊娠期間中はネコの接触をできるだけ避けたいものです。

2)     包虫症

北海道のキツネの小腸内に成虫が存在していますが、糞便とともに排泄された卵をネズミやヒトが飲み込んだ結果、肝臓に寄生します。この結果、長年かけて侵食された肝臓は外科的に摘出する以外に治療方法がなくなります。北海道では野生のキツネに近づかないことが大切です。

3)    回虫症

イヌやネコに寄生するイヌ回虫、ネコ回虫が人間に寄生することが注目されています。イヌやネコの糞便の中に排出された回虫や卵がついている土や野菜から感染し、熱発や肺炎などをおこします。最近、公園の砂場で遊ぶ子供さんへの感染が注目されており、手洗いやうがいがとっても大切です。

4)    肺吸虫症

サワガニなどの川に住む甲殻類を食べると、この中にいた幼虫が腸から肺へ移動し卵を産み、これが痰とともに排出されます。サワガニなどをペットとして飼うとこのような感染の危険にさらされかねません。

III.        細菌

1)     猫ひっかき病

 イヌやネコにひっかかれたり咬まれたりした傷がはれたり、高熱が出たりリンパ節がはれたりします。イヌの75%、ネコの97%に存在するといわれているパスツレラ菌は口内に存在する常在菌であり、20%のネコには爪の中にも存在するといわれています。

2)    サルモネラ症

肉や卵などからの食中毒の原因菌として有名ですが、イヌやネコなどのほか、カメなどのは虫類からの感染も無視できません。水槽の掃除の後などはよく手を洗うようにしましょう。

3)    結核

結核が過去の病気でなくなり、若いヒトの間でも再び流行してきていることが話題となっています。感染源として、イヌやネコ、サルも考えられています。

4)  細菌性赤痢症

赤痢菌が原因となって血液が混じった下痢をするのが特徴です。原因となる動物はサルであり、特に東南アジアからの輸入サルには注意が必要です。

IV.        リケッチア、クラミジア

1)    オウム病

クラミジアという病原体が鳥類に幅広く感染しています。鳥の糞便中に存在し、ヒトに感染するとひどい風邪のような症状になります。鳥類ではオウムではじめて発見されたため「オウム病」という名前がついています。

2)   Q熱

世界に広く分布しているコクシエラという病原体が原因ですが、最近では家畜からだけでなくネコなどからの感染も考えられています。特に妊娠動物の胎盤や羊水に多くの病原体が含まれているといわれています。

V.           真菌(カビ)

ミズムシやタムシなどの原因菌である皮膚糸状菌はかゆみ、湿疹、脱毛など症状をおこします。イヌ、ネコ、サル、ウサギ、ハムスター、モルモット、リス、ニワトリなどほとんどの動物におこります。はげているネコやイヌには注意が必要です。

3.         ペットとうまく共存するために
ペットが子供の顔をなめたり、濃厚なキスをする光景をよく見かけます。赤ちゃんやお年寄り、病気などで免疫力が落ちた人が濃厚な接触をしない限り、命取りになることはまずありませんが、発見が遅れたり処置が適切でないと病気が重症化することがあります。特に、赤ちゃんのいる家庭では免疫抗体ができる2〜3歳まではペットがいる部屋と赤ちゃんがいる部屋を別にしてあげることがすすめられます。

人畜共通感染症を予防するために、@食べ物や食器類は動物のものと区別する、A必要なワクチンを受ける、Bペットをさわったり排泄物を処理した後はよく手を洗う、Cペットを獣医に定期的に診察してもらう、などの対策を欠かさないことが大切です。  

最近では、ペットがもたらすアレルギーも大きな社会問題となっています。ペットの毛、羽、フケ、糞尿、唾液、ノミやダニなどがアレルギーの直接の原因となって皮膚炎や喘息のほか、アレルギー性の肺炎をおこすことも報告されています。ペットのいるご家庭では人畜共通感染症のほかにアレルギーのことも考慮に入れて、こまめな室内換気や掃除を心がけたいものです。ペットを飼っていることを医師に伝えてもらうことが診断の手助けになることがありますので、病院を受診するときは積極的に伝えるようにしましょう。

  核家族化・少子化が進み、ペットがコンパニオンアニマル(伴侶動物)としていまや良きパートナーとして安らぎや癒しをあたえ、ヒトの代替の役まで果たしてくれる存在となりましたが、ペットがヒトにもたらす病気についての知識をもっと深め、ペットと仲良く暮らす生活を築きたいものです。