ご存知ですか?「肺炎球菌ワクチン」

わが国の三大死因はがん、心臓病、脳卒中ですが、肺炎で亡くなる人は年間8万人にのぼり、4番目に多くなっています。その肺炎をおこす原因として細菌、ウイルス、リケッチア、カビなどがありますが、中でも肺炎球菌は病原性が強く、肺炎の約50%を占めていると考えられています。肺炎球菌による感染症は肺炎球菌感染症と呼ばれ、気管支炎や肺炎などの呼吸器感染症のほか、副鼻腔炎、中耳炎、髄膜炎などの原因ともなっており、小児ではこれらの病気の原因菌として肺炎球菌が1〜2位を占めています。

1.肺炎球菌とは

肺炎球菌は1881年、パスツールによって狂犬病の患者の唾液から初めて分離同定されました。
 一般家庭で暮らす人の肺炎を市中肺炎、入院中の患者が肺炎になる場合を院内肺炎と呼んでいます。わが国では70歳未満の市中肺炎の原因菌はマイコプラズマという病原体が圧倒的に多いものの、70歳以上になりますと肺炎球菌が一番多くなっています。また重症の市中肺炎の約50%、院内肺炎の10%が肺炎球菌によるものと考えられています。
 発展途上国では毎年多くの子供たちや高齢者が肺炎球菌感染症で亡くなっています。毎年冬季に流行するインフルエンザにかかった高齢者の25%が引き続き重篤な細菌性肺炎にかかってしまうとも言われ、アメリカでは細菌性肺炎の代表である肺炎球菌感染症をワクチンによって予防できる病気のひとつと考え、積極的に肺炎球菌ワクチン接種を呼びかけています。

2肺炎球菌感染と肺炎

肺炎球菌と肺炎との関係は1883年にすでに報告されています。肺炎球菌は健康な人の鼻やのどなどに常に存在するものの、ふだんは病原性を発揮しません。しかし、インフルエンザなどの感染症が原因でのどの粘膜が損傷を受けると肺炎球菌の発育・増殖が促進され、気管支炎や肺炎をひき起こすようになります。肺炎球菌による肺炎の潜伏期は1〜3日と言われています。

3.肺炎球菌ワクチンとは

わが国では医師でさえ、その存在を知らなかった肺炎球菌ワクチンが、高齢者の市中肺炎の原因菌として最も多い肺炎球菌に有効なワクチンであることが最近ようやく新聞やテレビで取り上げられるようになりました。
 1927年に最初の肺炎球菌ワクチンが開発されました。肺炎球菌は構造上ポリサッカライド(多糖体)からなる莢膜(カプセル)を持つものと持たないものがあり、このカプセルを持つものが人に対する病原性を持っています。また肺炎球菌ワクチンにはポリサッカライド-ワクチンと結合型ワクチンとがありますが、前者のポリサッカライド-ワクチンは約90種類の型をもつ肺炎球菌のうち23種の菌型が成人肺炎の原因となることが多いため、23種の血清型に対して莢膜(カプセル)のポリサッカライドを精製して作られた23価ポリサッカライド-ワクチン(pneumococcal polysaccharide vaccine;PPV23)と呼ばれる肺炎球菌多糖体ワクチンが1983年に認可されました。この肺炎球菌は病原性の強い肺炎球菌の7080%以上に有効と言われています。しかしながら、この肺炎球菌ワクチンは日本で認可はされているものの製造されていないため輸入品となっています。

4.肺炎球菌ワクチンの接種時期

肺炎球菌ワクチンの効果を示す抗体価は接種後1ヶ月で最高値となり、5年後はピーク時の80%にまで落ち以後も徐々に低下しますが、5年目以降も効果は残っています。接種は1年中いつでも可能ですが、わが国では予防接種に関する法律の関係上、不活化ワクチンである肺炎球菌ワクチンは他の生ワクチン予防接種からは4週間、インフルエンザなどの不活化ワクチンからは1週間あけることが必要です。また肺炎球菌ワクチン接種後に他の予防接種を行う際は1週間以上あける必要があります。しかしながらアメリカでは左右別々の腕にインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの同時接種が許可されています。

5.肺炎球菌ワクチン接種の適応者

肺炎球菌ワクチン接種が必要な方や接種が不適当だったり、接種にあたって注意を必要とする方を表1.2.3に示しました。毎冬その猛威に脅かされてきたインフルエンザに有効だと再び脚光を浴びているインフルエンザワクチン同様、肺炎球菌ワクチンも発症すると重症化する危険が高い高齢者や肺や心臓に慢性の病気を持っている方に対しての有効性が確立されつつあります。日本でもまだ認可されていない7価の肺炎球菌蛋白結合多糖体ワクチン(neumococcal conjugate vaccine;PCV)は2歳未満の乳幼児を対象にしていますが、その有効性についてはまだ認されていません。

6.肺炎球菌ワクチンの効果

 肺炎球菌ワクチンは高齢者の肺炎の原因として頻度の高い肺炎球菌に狙いを絞った不活化ワクチンで肺炎を予防できるほか、万が一肺炎になっても軽症で済むなどの効果がありますが、すべての肺炎に有効ということではありません。
 病原体を弱毒化した生ワクチンが終生免疫を得られるのに対して、ホルマリンなどの薬物処理で毒素活性を消失させた不活化ワクチンである肺炎球菌ワクチンは効果持続が比較的短く約5年有効と言われていますが、実際には老年期に一度接種しておけば十分とも考えられています。

7.肺炎球菌ワクチンの普及
 1999年アメリカでは65歳以上の約半数の人が肺炎球菌ワクチンを接種していると言われています。
 しかしながら、わが国では1998年全国でわずかに2,000人程度、2,0004,700人、2001年には10倍の約20,000人に増え、2002年は約154,000人と急速に増加しましたが、高齢者の接種率が高いアメリカに対して日本ではまだ1%弱にしか過ぎません。
 これまで肺炎球菌ワクチンが普及しなかった理由として、
  1)一般市民だけでなく医師にもワクチンの知名度がきわめて低いこと
  2)健康保険がきかないこと
  3)接種率が低い分、安全性に関しての不安が大きいこと
などがあげられます。


8.肺炎球菌ワクチンの副反応

注射部位のかゆみや疼痛のほか、発赤、はれ、軽い発熱、関節痛、筋肉痛などインフルエンザ予防接種と同じくらいの副反応はみられますが、その多くは1〜3日で消失します。重篤な副反応は極めて少ないものの、1)アナフィラキシー様反応 2)血小板減少 3)知覚異常、ギランバレー症候群などの急性神経根障害などの副反応が認められることもありますので、接種にあたってはかかりつけ医とよく相談しましょう。
 また持続的なワクチン効果を期待して短期間で再接種を行うと、接種した部位での強い副作用が増加するといわれています。5年以上の間隔をおいて再接種すれば副反応も減り、持続的な効果がみられるといわれますが日本ではまだ追加接種は認められていません。

9.肺炎球菌ワクチンはいくらかかる?

脾臓を摘出している方は健康保険がききますが、それ以外の方は全額自費となり、全国平均8,000円前後が多いようです。肺炎球菌ワクチンの有効性からわが国でもワクチンの公費助成を実施している市町村があります。またカナダでは全額公費負担となっています。

10.最後に

肺炎球菌ワクチンはあくまでも肺炎球菌からなる肺炎を予防するもので、すべての肺炎を予防できるわけではありません。また肺炎球菌による肺炎を100%予防できるものでもありません。高齢の慢性肺疾患患者にインフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの両ワクチンを接種すると入院を63%、死亡を81%減らすことができるとの海外報告もあります。
 肺炎球菌ワクチンが正しく理解され接種率が普及することにより、肺炎球菌による肺炎から解放されることが期待されます。しかしながらワクチンを接種したからといって安心せず、日頃から手洗いやうがいを励行し、規則正しい生活で体調を整えることが大切です。


1 ワクチン接種が重要な方(2歳以上で肺炎球菌による重篤疾患に罹患する危険が高い人)

   @      65歳以上の高齢者
A      心臓や呼吸器に慢性の疾患がある方
B      糖尿病の方
C      腎不全や肝機能障害のある方
D      臓摘出した方や脾臓機能不全のある方
E      免疫抑制作用を有する治療を予定されている方で治療開始まで少なくとも10日以上の余裕がある方


表2 接種が不適当な方(予防接種を受けることが適当でない方)

     1.       過去に肺炎球菌ワクチンを接種した方
2.       2歳未満の方
3.       放射線、免疫抑制剤で治療中の方または接種後まもなく治療開始予定の方
4.       明らかな発熱を呈している方
5.       重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな方
6.       本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな方
7.       上気に掲げる方のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある方


表3 接種に注意が必要な方

健康状態および体質を勘案し、次のいずれかに該当すると認められた場合には注意して接種しなければいけません

     1.       心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患および発育障害等の基礎疾患を有することが明らかな方
2.       ほかの予防接種で2日以内に発熱のみられた方または全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある方
3.       過去にけいれんの既往のある方
4.       過去に免疫不全の診断がなされている方
5.       本剤の成分に対してアレルギーを呈するおそれのある方
6.       妊娠または妊娠している可能性のある方